National Theatre Live お気に召すまま As You Like It (Review)
W.シェイクスピア原作。
ロザリー・クレイグは今季の別作品『三文オペラ』に続いて二度目の鑑賞。実を言うと『三文オペラ』の彼女が出演してると知って、これを観ようと思った。
物語は所謂『貴種流離譚』…?
ある時代のあるところで公爵位の簒奪が起こる。冷酷非情な弟が兄の名誉と財産を奪う。兄は混沌とした森へと逃げる。
兄の娘(ロザリンド)はその弟の娘(シーリア)の遊び相手として兄の手許に残される。その娘二人は親友となる。
青年オーランドーは一族の財産を独り占めする兄(オリヴァー)によって不当に扱われている。
青年オーランドーは試練(レスリング)に打ち勝ち(ロザリンド)と恋に落ちる。
公爵から追放を言い渡されたロザリンドはシーリアとともに(彼女は無理やりついてきた)父の籠る森へと男装して旅立つ。
オーランドーもまた、自らの運命を切り開くため森へと旅立つ。
ロザリンドは森で羊飼いたちの恋愛騒動に巻き込まれる。
オーランドーは森で男装したロザリンドと再開するが彼女の正体を見抜けず、彼女を相手に告白の練習をさせられる。
オーランドーの兄オリヴァーは森で弟に救われたことで改心する。このとき出会ったシーリアと互いに一目ぼれする。
ロザリンドの機転によって羊飼いたちの恋は収まるべきところに収まる。
シーリアはオリバーと結ばれる。
ロザリンドとオーランドーも結ばれる。
森に攻め込んできた公爵(弟)は改心し兄に全てを返し自らは修道院に入る。
めでたしめでたし。
『三文オペラ』との、物語の結末の違いが面白い
『オペラ』は、この世の終わりを感じさせる荒廃した世界を舞台にしている。強いものは弱いものを食い物にし、姦通はまかり通り、法律は歪められ、陰謀が張り巡らされる。その世界で非道の限りを尽くすマック・ザ・ナイフはいよいよ年貢の納め時、というところで大どんでん返しが起こる。この物語には教訓や救いがない(一方で優れてユーモラスでチャーミングだ)。
『お気に召すまま』も不吉に始まるが、そこからの物語の語られ方は全くベクトルが異なる。
(前)公爵は森で不遇をかこつが、周りの人たちの思いやりある態度によって持ち前の尊厳を保ちつつ暮らしている。彼はやがて、彼のもとにあるべきものを取り戻す。
(前)公爵の娘ロザリンドは、僭主の娘の遊び相手という不当な扱いを受けるが、彼女もしかるべき地位としかるべき結婚相手を得る。
オーランドーは出自に見合う教育を受ける機会を取り上げられながらも、尊厳を失わない。自らの試練を乗り越え、然るべき地位と然るべき結婚相手を獲得する。
邪まな公爵の弟は(素直に)改心し兄に全てを還し修道院に入る。
この舞台はこの明るく前向きな物語を、『森』の象徴するメランコリー(寂しさ)と対比させながら語り紡ぐ。
前半の近代的なオフィスの風景(明るく煌びやかだけど、人情味がない)
と
後半の森の風景(暗く厳しく寂しいけど、人の温かみがある)
との対比も良かった。
最後、貴族に対比して無知蒙昧と思われた羊飼いがまるで全能の神のように狂言回しを行うところが印象的だった。
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