パスのスタイルの違い 或いはQBの資質について
アメフットにおけるパスのあり方には、主に二通りあると思ってます。
Optional Pass(仮称)
と
Fixed Pass(仮称)
です。
Optional Pass(仮称)とは、
ある特定のエリアを対象として、
ある特定のディフェンダーをキーに、
複数のレシーバーにパスを投げ分けるスタイルのパスに、
私が勝手に名前を付けたものです。
Fixed Pass(仮称)とは、
既定のレシーバーに、
既定のタイミングで、
既定のリードボールを投げ込むスタイルのパスに、
私が勝手に名前を付けたものです。
これらのパスを専門用語で何と呼ぶのか私には分かりません。ご存知の親切な方がいらっしゃったら教えてください。
お願いします。
すべてのパスはそもそもオプショナルである
パスプレイにおいて
誰に、
どのタイミングで、
どんなリードボールを投げ込むか
はディフェンスの出方にも左右されることで、オフェンスの側から一方的に決められません。なので大抵のパスには
このタイミングで、
こいつに、
こんなリードボールを投げる
ことをいくつかの事柄をキーに決定するプログラム(コード)が組み込まれています。。
上はそんなパスのイメージ図(あくまでイメージ)です。このプレイは
二人のレシーバーが10Yardの深さで交差して
相手Sがどっちについて行ったかをキーに
Sがついて行かなかった方にパスを投げる。
S二人が両方にうまくついたら最右のレシーバーにディープボールを投げ込む
一応 Safty もつけておく
という約束事で成り立っています。
プログラム(コード)っぽく書くとこんな感じです。
このときにおさえておかないといけないポイントが三つ。
1)コードを長くするとそのプレイの汎用性が増す(コールする環境を選ばなくなる)。
2)コードが長くなるとQBが判断しないといけない事柄が増える。
3)コードの長さがQBがボールを持つ長さを決定づける。
ターゲットを多くする/攻撃対象とするエリアを広くとる/キーとするディフェンダーを増やすと、そのプレイをコールする環境(ボールポジション/ダウンと残りヤード/相手のパスカバレッジ、など)を選ばなくなります。が、一方でQBがボールを持つ時間が長くなることからインシデント/アクシデントの発生頻度は高くなります。
ターゲットを限定し/エリアを狭くし/キーとするディフェンダーを少なくすればQBの球離れは早くなりインシデント/アクシデントの発生頻度は下がります。が、一方では極端にそのプレイをコールする環境を選ぶようになるでしょう。
ここでいうリスクとは
1)パス不成功
2)サック
3)ターンオーバー(Fumble Lost,INT)
などを指します。
Optional Pass(仮称)設計のキモ
NFLのゲームをみてるときにはあまり意識されないかもしれませんが、この競技では普通
1)攻撃対象:フィールドの全面
2)キーとするディフェンダー:全員
3)ターゲットとするレシーバー:全員
といったパスは使われることがありません。理由は簡単で、想定されるリスクがリターンの期待値を上回るからです。
オフェンスコーディネーターはだから、どこまでリスクをとればリターンがリスクを上回るのか、を念頭にパスオフェンスを組み立てることになります。
— ケチャ[kétʃə]若干舞い上がり中 (@toosourketchup) September 22, 2017
パスを組み立てるときに考慮にいれないといけない重要な点がもう一つ。
QBがボールを持つ時間が長くなると、QBはボールを投げ組むというタスクとパスラッシャーから逃げ回るというタスクを同時にこなさいといけなくなります。
この二重課題については、実に上手くやるQBと全く下手なQBとにはっきりと分かれるように思います。私がこの記事の見出しで触れている”QBの資質”とは、リーダーシップがあるとか身体機能が高いとかの話でなく、この二重課題が上手いか下手かの話です。
二重課題が上手いQBとして真っ先に名前が挙がるのは
Aaron Rodgers (Green Bay Packers)
Andrew Luck (Indianapolis Colts)
Ben Roethlithberger (pittsburgh Steelers)
あたりでしょうか。
下手な奴として私の頭に真っ先に浮かぶのは
Brock Osweiler (Denver Broncos)
Derek Carr (Oakland Raiders)
の二人です。
Optional Pass(仮称)の利点
- 汎用性が高い。
- 用意するプレイ数を絞れる。プレイブックをすっきりさせて、各プレイ(パスパターンの組み合わせと彼らへの投げ分け)の精度を上げることに集中して取り組める
汎用性が高いとは
- コールするフィールドポジションを選ばない
- コールするダウンを選ばない
- 相手のパスカバレッジのパターンに対して柔軟に対処できる
ことを指します。このパスを戦術の柱に置くチームは、いくつかのパスルートの組み合わせ(と優先順位の取り決め)を用意しておけばプレイの選択にそれほど困らずに済むことになります。
下はあるチームがOptional Pass(仮称)をコールしようとしているイメージ図です。
”Go”ルートを走るWRを優先順位の1番目として、その手前、さらにその手前へとターゲットを探していくコードが組み込まれています。
しかし、相手チームには支配力のあるCBがいて、彼の守る(と考えられる)奥のゾーンへのパスは通る目途が立ちません。
この場合、Optional Pass(仮称)使いのチームはパスのルートの組み合わせはそのままに、ターゲットの優先順位を入れ替えることで対応できます。
Optional Pass(仮称)の持つこの汎用性の高さは、後でふれる Fixed Pass(仮称)に対する大きなアドバンテージになります。
Optional Pass(仮称)の欠点
コードの処理に時間がかかることが多く、QBがボールを持つ時間が長くなる傾向があります。
その結果パスラッシュの強いディフェンスに対してはボールの進み具合が不安定になりやすいことが挙げられます。
Fixed Pass(仮称)とは
コードの長さを可能な限り(というかこれ以上短くできないほど)短くしたパスです。
このパスの利点はボールがスナップされた後のQBのタスク処理の負担が軽いことで、
不利な点は
- 汎用性がない(コールするタイミングを極端に選ぶ)
- その結果用意すべきプレイが膨大な数になる
ことなどです。
— ケチャ[kétʃə]若干舞い上がり中 (@toosourketchup) September 23, 2017
上は Patriots の十八番、スロットの位置に入った J.Edelman へのショートアウトパスです。
相手ディフェンスの右( Patriots から見て左)はマンツーマンのようにみえます。そして、Edelman に対応している(とみられる)DBは、お互いの位置関係から黄色い◎に彼より先に着く見込みはなさそうです。
なのでこの場合、QBは黄色の◎にボールに投げ込むのに邪魔になる左(相手から見て右)のCBが左端のWRについていくかどうか、をキーに
- Edelman にパスを通すか
- 投げ捨てるか
を判断します。コードにするとこんなです。
このようにFixed Pass (仮称)の利点は
- QBがボールを誰に、どのタイミングで投げるかのタスク処理が軽い
- 大抵の場合、タスク処理がパスラッシュが届く時間より前に終了する
- 結果としてボールを持ちすぎることを起因とするインシデント/アクシデントを減らせる
ことにあります。
欠点は明らかで、汎用性がない。状況次第でプレイそのものが成立しないことです。上の例でいうと、もしCBがアウトサイドゾーンに居座ったら、彼に対してストライクを投げることになります。
そのためFixed Pass (仮称)使いのチームは、1ゲーム毎にそのゲーム中に想定される状況に対応しうるだけの十分な数のプレイを用意する必要があります。
NFL 2016#Divisional round#huostonTexans#NewEnglandPatriots pic.twitter.com/2A8z3rdBmF
— ケチャ[kétʃə]若干舞い上がり中 (@toosourketchup) September 22, 2017
Patriots の場合、左WRのポジションには
C.Hogan
M.Mitchell
など複数の選手が入ることがありますが、例えば上記”スラント”ルートのパス一つとってもこのポジションに入る選手全員と、実戦で使える水準にまで息を合わせないといけないわけです。
この準備段階での作業量の膨大さは、Fixed Pass (仮称)の欠点の一つに挙げられると思います。
Patriots のパスオフェンスが良く進む理由については近日中に別の記事を書く予定です。
Patriots のパスはなぜあんなに良く通るのか?(近日公開予定)
Optional Pass(仮称)の下手なQBがこの先生きのこるには
この記事で私が一番書きたかったのは
Derek Carr (Oakland Raiders)
のことです。
かれのQBとしての資質には
Optional Pass(仮称)というか二重課題の処理がやたら下手くそな一方で
Fixed Pass (仮称)はクッソ上手い
というとても興味深い特徴があります。昨季のQB周りで起こるインシデント/アクシデントの大半は Fixed Pass (仮称) の不発、つまりイニシャルターゲットに既定のタイミングでボールを投げ込めなかったことに起因しているほどです。
二重課題が下手なのは
- ポケット周りの”Awareness”「気づき(?)」が足りない
- 試合勘がない。投げ捨てていいとこが分からない
- そもそもイニシャルターゲットに投げ込めなかった場合の準備がなかった
ことなどが理由として考えられると思います。
Raiders のパスオフェンスはクーパー/クラブツリーへのFixed Pass (仮称)に負う部分が大きいわけですが、 Chiefs, Broncos といった相手にはこの武器だけでは太刀打ちできません。
Carr には
この二人以外へのパスの精度を高める
ことと、
あとちょっとOptional Pass(仮称)が上手くなる
ことが求められると思います。
実をいうと、既に昨季より成長してる部分が見えてると思うんですよね。
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読んでくださった方、ありがとうございます。
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2件のフィードバック
[…] (”Fixed なパス”については「パスのスタイルの違い 或いはQBの資質について」をご参照ください。この記事も後日書き直します) […]
[…] 以前、パスのスタイルの違い 或いはQBの資質について という記事を書きました。自分でいうのもなんですが、現在のNFL におけるパスオフェンスのキモについてわりと良く分析出来て […]