The Top of The EDGEs V.Miller/J.Clowney/K.Mack
昔下書き程度に書いてほったらかしていた記事を加筆、修正しました。記事の内容は2017シーズン当時の情勢を反映していますがそこは修正していませんので2018シーズン開幕前現在読むと「?」と思われる部分もあるかと思いますがご了承ください。
Von Miller (Denver Broncos, Class of 2011, 2nd pick overall)
Jadeveon Clownery (Houston Texans, Class of 2014 1st pick overall)
Kharil Mack (Oakland Raiders, Class of 2014, 5th pick overall)
この3人は現在のNFLを代表するEDGEラッシャーであり、また入団年度も近くほぼ同期といって差し支えないと思います。各年度の最高水準のドラフト候補生として所属チームに指名されたことでも共通しています。
(注:勿論Clsss of 2011にJJ.Watt がいることは承知しています。彼についてはEdge としてでなくDLとして扱います。)
一方で EDGE というポジションの特殊性(曖昧さ?)もあり各人の各チームでの使われ方や各人の強みとする部分にも個性があり観察対象としてとても興味深いと思います。
この記事では、この3人の使われ方と強みについて観察しつつ、現在のNFLで EDGE というポジジョンに期待される役割についても考えてみたいと思います。
EDGE の Alignment / Assignment
ところで皆さんは DE と OLB の違いを上手く説明できますか。要は、
T を相手に彼を押す/押し返すのがDE
で
その彼の外側でラッシュ/パスカバーを行うのが OLB なんでしょうか?
オフェンスの両インテリアラインの形成するラインの、その最も外側にセットして
- オフェンスの進めるプレイを封じ込めるディフェンスの動きのなかで、その両側を担当する(パスラッシュもランに対するコンテインもここに含まれます)。
- インテリアラインの支援を受けつつオフェンスのボールキャリアを”拾う”
役割からなっている。
現在では OLB と呼ばれる選手であってもインテリアとの”衝突”から全く無縁ではいられないのでDE と OLB の違いとは結局のところ、この二つの役割をどの程度の割合でこなしてるかの違いしかないんじゃないかと思います。
ランディフェンス
私は個人的に “Run the Ball” , “Stop the Run” の攻防のカギを握るのはOffensive Tackle (とTE)と Edge Rusher 間の力関係だと考えています。図で示す赤いゾーンはRBが自分の走路として活用できるフィールド上の横幅で、私はこのゾーンのことを ”Rushable zone”と勝手に呼んでいます。
この概念がフットボール用語として正式になんと呼ばれているかは知らないのですがその概念自体は確実にある(フットボールを知っている/フットボールに関わっている人間なら必ず意識している)と思います。ある局面においてRBがどれくらい確実にボールを前に進められるか(進められないか)は
”Rushable zone 上のディフェンダーの密度”
でほぼ決まります。そのうえでランディフェンスに参加するディフェンダーの数はほとんど変わりようがないので、この密度は
”Rushable zone の横幅がどれくらい広いか”
で決まります。この”Rushable zone の横幅”を決めるのがOffensive Tackle とEdge Rusher 間の攻防なのです。
プレイサイドのEdge のアサイメント:コンテイン
”Rushable zone”をプレイサイド側のサイドラインまで拡張しようとする、オフェンス側の意図をスポイルする最も重要な役割です。彼がこの役割に成功するかどうかが喪失ヤードが3,4ヤードで済むか10ヤード以上の大出血になるかの分岐点になります。
— ケチャ[kétʃə] (@toosourketchup) June 1, 2018
— ケチャ[kétʃə] (@toosourketchup) June 1, 2018
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逆サイドのEdge のアサイメント:バックサイドラッシュ
ボールが進むのと逆サイドに位置するエッジは、そのプレイの反対側から”Rushable zone”を狭くしRBがカットバックできるスペースを潰す役割を果たします。またスラントオフタックルのような「遅い」プレイのときはプライマリータックラーとしてRBを仕留める役割が期待されます。
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パスディフェンス
パスラッシュ
エッジラッシャーはたいていの場合Offensive Line の一番外側の選手の、さらに外側にセットするためラインが共同で彼をブロックしに行くことに物理的な困難があります。RB/TEをヘルプに行かせた場合にはオフェンス側はその分ターゲットとしうるレシーバーが少なくなることになります。優秀なパスラッシャーには「自身が相手パスオフェンスにとっての脅威になること」と「相手のマークを引き付けることでチームメイトへのマークを軽減する」役割の両方が求められます。
パスカバー
ゾーンディフェンスの場合はフラットかフックのゾーンを、マンツーマンの場合はRBかTEをマークすることになります。大抵のエッジプレイヤーは前に向かってプレイ(ラッシュ)することが得意で後ろや横向きにプレイすることになるこれらの動きではラッシュ時人が変わったようなぎこちなさを見せる選手も多いです。だからこそ、この役割が上手くこなせる選手のいるチームは戦術的な選択の幅が大きくなります(相対するオフェンスにとってはやっかいです)。
以上が(私が認識している範囲での)エッジラッシャーの役割です。ランにおいてもパスにおいても相手オフェンスの攻撃の展開を大きく制限しうる、モダーンフットボールにおける最重要ポジションといえます。
How They Work ?
V.Miller
Basic Alignment : (Wide) 9 technique on 3-4 Defense
Main Assignment : Pass Rushing
Offensive Line の最外側から少し距離を取った位置にセットすることが多いです。これはパスラッシュの効率を優先する意図(ブロッカーのパンチが届きにくい、掴まえられにくくする)があると思われます。一方でボックスエリアのほぼ外側に位置しオフタックルプレイの際はキックアウト(外側に向けて突き飛ばす)されやすい、ランディフェンスはしにくいポジションです。
K.Mack
Basic Alignment : 5 technique (Weak side) on 4-3(Pro) Defense
Main Assignment : contain (against Run),pass rushing (against pass)
J.Clowney
Basic Alignment : 7 technique (Weak side) on 3-4 Defense
Main Assignment : contain (against run), pass rushing / pass cover (against pass)
上述の二人のアサイメント/アライメントが割と固定的なのに対し、Texans ディフェンスにおける J.Clowney の果たす役割はその所属チームのディフェンススキームを反映してより”多様”です。基本的には3-4ディフェンスのウィークサイドのエッジですが、場合によりセットする位置やそこからの役割(Los を割ってバックフィールドに突っ込むのか/カバーに下がるのか)を変えます。遊軍のようですね。また上述の2人が自分のアサイメントをほぼ1人でこなすのに対して、彼は他のチームメイトと協同する動きが多いのも特徴です。
プライマリーラッシャーの#56をフリーで突入させるための、ペイトリオッツLGを釣る役割(囮)
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マンツーマンカバー
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How Good They Are ?
パスラッシュ
この分野では、V.Miller の生産性の高さが群を抜いています。私はこの生産性の高さの源は彼自身の才能の他にもブロンコスの、彼の才能を引き出すことへの”偏執的な”拘りの影響も大きいと思います。
(参考記事:Bronco’s ”殺られる前に殺れ” Defense 、或いは”semi Goalline defense”)
J.Clowney はこの3人のうちではパスラッシュでアピールする機会は少いように思われますが、
- テキサンズがチームの傾向として組織的なラッシュ/カバースキームの実施に積極的なこと
- 同僚にパスラッシュ力の高い選手がいることの恩恵を受けられる
ことなどもあり、”ラッシュ機会あたりのラッシュの生産性の高さ”も高いレベルで安定してるようです。
最後、我がK.Mack ですが、、
良いときはそれこそ変態的に良いのは周知の通りです。
- ダブルチームを割る
- QBを引き倒す
- ファンブルさせる
- ファンブルさせて自分でリカバーする
…めちゃくちゃです。
一方で彼のパスラッシュには生産性の高いときと低いときのムラがありすぎる弱点があります。1試合あたりめちゃくちゃなプレイが2,3回。それを含めて生産性の高いラッシュが試合あたり5回程度とすると、残り20~30回のパスラッシュ機会ではアピールしてないことになります。こうなってしまう要因にはレイダーズというチームの、チームをまとめあげる力が足りてないことも影響してると思われますが、なんとももったいないですよね。
ここはホントになんとかしてもらわないと。
ランディフェンス
この分野ではK.Mack の生産性の高さがずば抜けていると思います。レイダーズのランディフェンスは数字のうえでは良くありませんが(悪いです)、Mack のサイドへのランに限っていうとその”ストッピングパワー(?)”は NFL で一番だと確信します。彼のランストップ能力の根元は、
- 対面ブロッカーより先に相手にパンチを浴びせる瞬発力
- 相手オフェンスの意図を瞬時に読み取りその意図をスポイルする動きをとる頭の良さ
にあると思います。ただしボールが自分の責任サイドに来なかったときに傍観者になってしまうシーンが多いです。バックサイドからのラッシュもやればできるのに、やらない/できない/結果として残せていないのはもったいないと思います。
J.Clowney のランディフェンスの強みは、彼の”がむしゃらさ”にあると思います(彼のプレイはそもそも全てそうです)。特に LoS を割ってバックサイドからボールキャリアを捕まえるシーンは最高に格好良いです。
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それにやっぱりパスラッシュの場合と被りますが、テキサンズのフロント7が強いことの恩恵もあると思います。彼も、JJ.Watt も、テキサンズのフロント全員にいえることですが、彼らがボールキャリアに群がって仕留める場面のワイルドさは NFL でも突出してるんじゃないでしょうか?
FBのブロックを潰す動き。RBの走路をサイドライン方向に限定(横走り)させた。
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V.Miller はランディフェンス では前の二人ほどアピールする場面が少いですが
- セットする位置がパスラッシュ寄りというか、そもそもTを押し返してオフタックルを閉じる(ランディフェンスに適した)役割を果たす位置にないこと
- チームからランディフェンスに関してはそれほど期待されてない?(パスラッシュに集中してほしい)
- ブロンコス自体がランディフェンスに強くないことから印象が薄い
ことなどが影響してると思います。
LoS 以外の場所でのアピール
これはJ.Clowney の独壇場だと思います。そもそもこの3人のうちでは、セットするポジションや責任プレイに関して突出してユニークです。パスカバーに下がっても無難なんですよね。動きにぎこちなさがないっていうか。
K.Mack はパスカバーに下がることもあるんですが生産的な意味はほとんどありません。
- 本人にカバーの適正がない
- 彼をカバーに下げるディフェンスプレイの精度が低い/コールされるタイミングが不適切
なことが原因だと思います。
まとめ
V.Miller
パスラッシュの職人としてこれから前人未到の領域に入っていく予感があります。彼は自分にとって最適の場所で、最適な使われ方をされてると思います。
一方でEDGEとしての多様性(ランディフェンス/パスラッシュ/パスカバー)を極める機会は限られそうですが、それもたいして問題じゃない気がしますね。
J.Clowney
彼はMiller とは逆に、EGDE プレイヤーのユーティリティぶりを極めた存在として記憶される選手になりそうな予感がします。彼をみてると
- 火消し屋
- 掃除屋
- 便利屋
といった「物事の始末をつけてまわる人」っていう立ち位置が浮かびます。
彼もいつかMiller や Mack と並ぶ、主役級の役割を果たす日が来るのでしょうか?
来てほしい気もするし来てほしくない気もします。
K.Mack
とにかくパフォーマンスにムラがありすぎます。ランディフェンスとパスラッシュの両方で NFL の頂点を極める実力があるのに、その実力をシーズンを通じて、1試合を通じて安定的に維持することができていません。
これは所属チームの、良くいえば選手の自主性に委ねる姿勢、悪くいえばコーチの果たすべき責任を選手に丸投げる文化も強く影響していると思います。
なんとかしてほしいです。ホントに。
おまけ
上記の3人とは別に、私が個人的に注目しているキャラクターをご紹介します。
Trey Flowers
New England Patriots, Class of 2015 Round:4 (101 overall)
T.Flowers は上で述べてきた3人ほど超人的なアスレチズムを披露する場面はありません。彼のプレイぶりを観察する面白さは
- 若手エッジラッシャーのうちでは群を抜いて高いフットボールスキルとセンス
- 所属チームの求める”ハイブリッドな”役割との相性の良さ
にあります。
(参考記事:Patriot’s “ロングゲインだけはダメよ” Defense” 、或いは”Semi Prevent Defense”)
ランディフェンス/パスラッシュ/パスカバーをそつなくこなすうえ、試合の要所で印象的な活躍をしてみせる勝負強さがあります。
一方でその癖のあるプレイスタイルから使われる環境が制限されてしまうのは、彼にとって残念だなぁと思います。例えば彼の先輩の C.Jones (現Cardinals)や J.Collins(現Browns)は移籍先で高給を取り移籍前と変わらない活躍を見せていますが、Flowers はどこへ行っても現チームと変わらず活躍できるタイプではないため移籍する機会(高給を稼ぐ機会)を制限されてしまうでしょう。
Patriots はこういう「身体機能や動作能力でアピールできないせいで市場で低い価値で取引されてるけど、スキル/センスはあって使い方次第で化ける素材」を見つけてきて、育ててパズルのピースにはめるのが上手いと思います。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
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