勝ち組チームに学ぶパスオフェンスのトレンド
アマゾンには向かいません。
以前、パスのスタイルの違い 或いはQBの資質について という記事を書きました。自分でいうのもなんですが、現在のNFL におけるパスオフェンスのキモについてわりと良く分析出来てるんじゃないかと思います。
今回は、この記事で訴えたかったことをもう少し分かりやすくすることと、情報をアップデートすること、いくつかのチームのパスプレイ(あるいはオフェンス自体)の設計について思うところを述べることを目的に記事を書いてみます。
パスプレイの設計
現在のパスオフェンスの源流を、Bill Walshの打ち立てた”West coast offense” まで遡ってみます。
Bill Walsh Draws Super Bowl XXIII Winning Play – Joe Montana to John Taylor
上はNFL 好きなら必ず一度は目にしたことがある、第23回スーパーボウルでの逆転劇の締めくくりとなったプレイ
”HB Curl, X up”
についてB.Walsh が直々に説明している動画です。
このプレイは
- 赤で囲ったゾーン(フックゾーン?)を攻撃対象とし、
- 黄色の円で囲ったディフェンダーの挙動をキーに、
- 彼がフックゾーンの奥に下がれば #1 にパスを投げる
- 彼がHB を警戒して前に上がってきたら奥のX にパスを投げる
という約束事で成り立っています。B.Walsh と49ers はこうした相手ディフェンダーの動きをキーに何人かのターゲットにショートパスを投げ分けるパスを複数用意することでオフェンスを組み立てました。これらのパスにはそれぞれ
- OLB をフラットゾーンから引き離す(またはフラットゾーンに張り付かせる)
- S を前線に上げてこさせる(または後方へ下げさせる)
など戦術上の意図を持ち、相手の出方に応じて柔軟に対処することができました。この「柔軟な対処」をフィールドレベルで担ったのがJoe Montana です。
Top 10 Joe Montana Games of All Time | NFL Films
#4: Joe Montana | The Top 100: NFL’s Greatest Players (2010) | NFL Films
ポケットでパスラッシュをかわしながらディフェンスのカバーを読み、適切なターゲットにピンポイントのパスを通すMontana のプレイスタイルは、49ers の大成功と相まって「QB のロールモデル」とされていきました。
パスプレイのコード
オフェンスのパスプレイには相手ディフェンスの挙動によってターゲットを選ぶよう「コード」が仕組まれています。QB はスナップを受け取ると予め決められたスポットまで下がり、そのコードを処理しつつボールを投げます。このコードの処理は
- コードが複雑になる(パスプレイに仕込むオプションを増やす)
- レシーバーの走るルートが長くなる
なると時間がかかるようになります。この「処理に時間がかかる」ことがパスプレイの成立をより困難にします。
上の図のようにターゲットの走るルートが短くコードも短いパスの場合、QB がコードを処理しターゲットにパスを投げ込む作業はパスラッシュが物理的に届くよりも前に終了します。
しかしターゲットが走り切るのに長い時間がかかったり、コードが長くなるとQB はコードの処理を「パスラッシュをかわしながら」行わなければならなくなります。「二重課題」が必要になるのです。
纏めると
- 攻撃の対象とするエリアを広くとる/キーとするディフェンダーの数を増やす/ターゲットとするレシーバーを増やす/ターゲットが走るルートを長くすると、相手ディフェンスの出方に対する柔軟性が増しそのプレイをコールする環境(何ダウンなのか、何ヤードとる必要があるのか)を選ばなくなります。一方でタスク処理が煩雑になり処理が終わるより前にプレイそのものが破綻するリスクが増します。
- 攻撃の対象とするエリアを狭くする/キーとするディフェンダーを少なくする/ターゲットとするレシーバーを減らす/ターゲットが走るルートを短くすれば、タスク処理は軽くなり処理が終わるより前にプレイそのものが破綻するリスクは減らせます。一方で相手ディフェンスの出方に対する柔軟性は制限されそのプレイをコールする環境を選ぶようになります。
オフェンスプレイの組み立て責任者はだから、どこまでリスクをとれば(コードを複雑にすれば)想定されるベネフィット(獲得ヤード)がリスクを上回るのか、を頭に入れながらパスのコードを組むことになります。
— ケチャ[kétʃə] (@toosourketchup) September 22, 2017
この「コードの処理」を「パスラッシュをかわし」ながら行う二重課題については、コーチが教えようのないQB が生まれ持った資質のようなものだ、というのが私の持論です。つまり上手い奴はNFL の世界に入ってきたときからある程度上手いし、この世界に入ってきた時点で上手くなかった奴は上手くならない、上手くなる前に見捨てられる、という意見です。
シリーズ”アメフット工学”より
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フラワーズは
・事前のスカウティングに基づき
・TEのとりうるルートを予め頭にいれたうえで
・QBの目線の先とTEの気配を感じながら
・パスの射線を遮るように動いてる
ただ自分の中の責任ゾーンに下がってる訳じゃない
これがプロ1年目のDEの動き pic.twitter.com/syp86x2AUO— ケチャ[kétʃə] (@toosourketchup) September 27, 2017
上の二つのプレイではいずれもエッジプレイヤーがフックゾーンに下がりQB のパスの射線を遮っています。QB はパスラッシュに対処することと、ターゲットとの間に射線を通すあるいは他のターゲットを探す処理を両立できていません。
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これは上と同じシーズン(2016年)のディビジョナルプレイオフにおける、Steelers の勝利を決定づけたプレイです。エッジプレイヤーがパス守備に下がりプライマリーターゲットの#84 の射線を遮りますが、QB B.Roethlisberger は落ち着いて自ら動くことで射線を通しています。
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こういった、「パスラッシュをかわすタスクとコードの処理を行うタスクを並行して行い、適切なターゲットに適切なタイミングで適切なボールを投げ込む」J.Montana 以来正統とされるクォーターバッキングを実践できるQB を獲得できるチームは限られています。現役でいえばこのB.Roethlisberger 以外に
- Aaron Rodgers (Green Bay Packers)
- Andrew Luck (Indianapolis Colts)
- Tom Brady (New England Patriots)
- Russell Wilson (Seattle Seahawks)
ぐらいでしょうか。近年のディフェンススキームの複雑化や選手のアスレチックアビリティの向上、多スキル化などゲームを取り巻く環境の変化もこの「正統的なクォーターバッキング」の遂行を困難にしています。この事実を受けて、NFL におけるパスオフェンスの傾向にも変化が表れてきました。
”Fixed”なパス
fixed:① 固定(式)の、固定された ②一定の、不変な ③あらかじめ仕組まれている、不正な、八百長の
”Fixed”なパス とは
- 既定のターゲットに
- 既定のタイミングで
- 既定のリードボールを投げ込む
タイプのパスに私が勝手につけた名前です。概念としてはこれまで述べてきた「相手の出方に合わせてターゲットを変える」”Optional”なパスの対義語にあたります。このタイプのパスはNFL の多くのチームが「ディフェンスの出方への対処をQB にフィールドレベルで実行させる」ことの困難に直面するようになってから増えてきました。
”Fixed"なパス
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”Fixed"なパス
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これは、黄色い丸までオフェンスプレイヤーとディフェンスプレイヤーのどちらが速く到達するかを競うゲームを、オフェンス側はボールのスナップカウントとパスの投げられる場所を知ったうえでプレイするパスだといえます。アメフットにおけるパスプレイ(ランプレイもそうですが)を考えるうえで最も重要な点はオフェンスはボールがスナップされるまでディフェンスの出方が分からない点にあります。従来の”Optionalなパス”ではQB がフィールドレベルで予めパスプレイに仕込まれた「コード」を処理することでディフェンスの出方に対処してきました。それに対してこの”Fixedなパス”ではディフェンスの出方への対処をプレイコーラーが相手の出方を予測するかたちで「予め誰に/どのタイミングで/どんな風に投げられるのか/が決まったパス」をコールします。言い換えれば、従来はQB が担ってきたディフェンスの出方に対処する役割をプレイコーラーが果たしていると言えます。このスタイルのパスではQB はフィールドレベルでは「パスの発射台」としての役割を果たすことになります。
以上が、従来正統的とされてきたパス(とクォーターバッキング)と、そのスタイルが一部で行き詰ってきたことで生まれた新しいパス(とクォーターバッキング)についての私の見解です。以下ではこのオフェンスのスタイルの変化を踏まえながら近年オフェンスで大成功を収めている
- Philadelphia Eagles
- Los Angeles Rams
- Kansas City Chiefs
- New England Patriots
を引き合いに彼らがどんなチーム編成で、どんなオフェンスプレイの組み立て方をすることで相手ディフェンスを出し抜いているのかを解説してみます。
秘訣1.スキルポジションにボトルネックを作らない
上は2016シーズンのOakland Raiders のスキルポジションです。競争力を持つ部分が外側の二人に大きく偏っていることが分かります。相手ディフェンスとしては、ディフェンスのマークを外の二人にきつくして代わりに競争力の低いTE とスロットレシーバーの動き回るスペースはある程度広いまま置いておく、という選択が取れます。このワイドアウトより内側のエリアで相手に対して競争力を発揮できないことがこのシーズンのRaiders オフェンスの足を引っ張ってしまいました。
上は2017シーズンのEagles のスキルポジションです。Raiders のそれとの違いは明らかで、このチームのスキルポジションには他のポジションの足を引っ張る存在が見当たりません。このオフェンス相手にする場合、ディフェンスはフィールドを広く薄く守る必要に迫られます。これをオフェンスの側からみると、スキルポジション一人当たりのディフェンダー密度が低くなり個々の選手がより活動しやすくなることを意味します。Eagles の場合フィジカルに優れたオフェンシブラインを揃えていることとRB のデプスの層が厚いことからラッシングアタックにも高い競争力を持つことがディフェンスにとってより厄介です。
Chiefs のスキルポジションです。ここはTE 、WR 、RB に注目が集まりがちですが、WR とTE の控えも層が厚く誰もが「信頼のおけるボールの受け手」としての役割を果たしています。
Patriots のスキルポジションです。このチームの「信頼のおけるボールの受け手」を集めることにかける情熱は特筆に値します。私は度々「フットボールチーム作りにおける”Principle”、原理原則の重要性」について言及しますが、ここぐらいその原理原則の追及に情熱的なチームは他にないんじゃないでしょうか。一昨年はTE の層の薄さを受けてトレードで2枚獲得し、昨年も上位指名権をトレードしてB.Cooks を獲得しています。このスキルポジションの質と量を保つ情熱の差、実際の行動力の差がRaiders とPatriots の差なんだと思います。
Rams はWR とRB に強みがあります。一方で上に挙げた他のチームと比べるとTE が弱いこと、デプスの層が薄いこと、ボールの進め方においてRB T.Gurley 一人に負う部分が多いことなどがやや見劣りします。
秘訣2.コール勝ちする
私がNFL の観戦を始めたころから2017年現在で一番変わってきたのがここかなぁ、と思います。ビデオ映像の編集が容易になったことや出力の方法が多様化したことで、他チームのプレイコールの傾向や各プレイにおける選手の細かい挙動を以前とは考えられないレベルで掘り下げることが可能になりました。
- 相手チームはどんなタイミングでどんなプレイをコールするのか、どこにどんな方法で攻めてくるのか(守るのか)の予測の精度が増した
- 練習がシステマチックになった。オフェンス/ディフェンスチームや各ユニットの練習メニューを分単位で管理することで試合前の準備の質と量が向上した
などの変化が、この部分の追及に熱心なチーム (A) とそれほど熱心でないチーム (B) との「準備」の差を広げるようになりました。
「コール勝ち」を収めるには
- 相手の出方の分析(どんな状況でどんなプレイをコールする傾向にあるのか)
- 試合で想定される状況の数だけプレイを予め準備する(試合当日に使えるレベルにまでプレイの精度を上げる)
- 実際の試合場面で「どんぴしゃ」のタイミングで「勝てるプレイ」をコールする
ことが必要です。“Fixedなパス”は汎用性がないためコールするタイミングを選ぶので、このタイプのパスを主体とするオフェンスは試合で想定される状況の数だけオフェンスプレイを用意して、試合で使い物になる精度にまで仕上げておかないといけない訳で、これはこれで大変な作業だと思います。
何処に、どんな手段でボールを運ぶか(Patriots の場合)
例1. “Island” or “Flood”
Patriots は自チームのレシーバー配分がストロングサイド: 3 ウィークサイド: 1 のフォーメーションをとるときに、相手のSafety のアライメントが
- ”Cover- 1″(FS がフィールド中央奥に一人でセットする)であればウィークサイドのワイドアウトでマンツーマン勝負
- ”Cover- 2″(Safety 二人ともがフィールド奥にセットする)であればストロングサイドの3人のレシーバーのコンビネーションで勝負
する傾向があります。私は上の攻撃シリーズを”Island”、下のシリーズを”Flood”と(勝手に)呼んでいます。
”Island”シリーズのミソはプレイサイドの他ディフェンダーがこの「レシーバー対CB 」のマッチアップに干渉できないことで、”Flood”シリーズのミソは速いタイミングで狭い範囲に多くのレシーバーを「溢れさせる」ことで相手ディフェンスのカバー責任の混乱を期待できることです。
Patriots: Strong side 3, Weak side 1
Texans: Cover-1
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Patriots: Strong side 3, Weak side 1
Steelers: Cover-1
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Patriots: Strong side 3, Weak side 1
Steelers: Cover-2 (?)
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例2. モーション、シフトに対するディフェンスのリアクションから相手の出方を予測する
モーション/シフトへのディフェンスのリアクションからボールがスナップされた後のディフェンスの動きを予測する。
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上のプレイはRB への速いタイミングのフラットパスですが、FB のモーションに対するディフェンスのリアクションから相手はゾーンディフェンスを敷いていることがボールがスナップされる前に推測できます。ここから、QB はRB への射線を遮るディフェンダーは現れないだろう、との推測を基にパスを通すか(推測通りの展開か)、投げ捨てるか(推測通りの展開でなかったか)を選択します。
例3. ”too quick なリアクションの裏をかく(”Scat” シリーズ)
Patriots のオフェンスはノーハドルからの”Fixed なパス”という速い基調のリズムで統一されています。相手ディフェンスはこのオフェンスに対して「速く」対応することが求められます。Patriots はこのディフェンスの対応が”too quick” な時にこの”Scat”シリーズ(カウンタープレイ)でその相手の対応の裏をかいてきます。レシーバーをボールキャリアーに使った”End around” や”Flea Flicker” は他チームもコールしますが、Patriots がこういったプレイを他チームより上手く使えるのはオフェンス全体のリズムが”quick” な基調で統一されていているからだと考えます。
”Scat (Counter)" シリーズ
相手の"too quick" なリアクションの裏をかく仕掛け。 Steelers #23 の挙動に注目「勝ち組チームに学ぶパスオフェンスのトレンド」https://t.co/VVdS6MqKFw … … …
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これ以外にも「ボックスエリアのディフェンダー密度をキーに、ボックスの内を攻めるか外を攻めるか」など、プレイ選択のキーはいくつかありそうです。
このチームを観察していると「この環境で、ここに、こういうボールの持ち込み方をすればベネフィットがリスクを上回りそうだな」ということを実によく考えているなと思わされます。
ブリッツの裏をかく(Rams のスクリーンパス)
スクリーンパスはパスラッシャーの背中側にブロッカーの膜(スクリーン)をつけてボールキャリアーに走らせるプレイなので相手ディフェンスがパスラッシュに割く人数を増やしてくる機をとらえてコールすると威力を発揮します。
ブリッツの裏をかくRams のスクリーンパス
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Rams は相手がブリッツを入れてくることをどうやって察知してるんでしょうね?不思議です…
スクリーンパスを有効に使えれば相手のディフェンスコーラーにブリッツを入れることをためらわせる効果も期待できます。
Los Angeles Rams については以下の記事でもふれています。
”ゲームの達人”
Oakland Raiders vs Los Angeles Rams Preview (1.0)
秘訣3.QB に英雄的な活躍を求めない
この記事で取り上げた「秘訣」のうちで最も重要な要素だと考えます。近年のフットボールにおけるパスの要素の重要性は高まる一方です。この状況では「どうすればパス攻撃のパフォーマンスを高い水準で安定させられるか(ディフェンスからはどうすれば相手のパス攻撃のパフォーマンスを下げられるか)」が最も重要なテーマになります。フットボールという競技でオフェンスがボールをエンドゾーンに持ち込むためには
1. ファーストダウンを更新しながら前進し続ける
ことが必要です。試合に勝つためには
2. 試合を通じて1. の取り組みを繰り返す
ことが必要です。シーズンを通じて勝ち続けるには
3. シーズンを通じて2. の取り組みを繰り返す
ことが必要になります。「時々目の覚めるようなロングパスが通る」とか「嵌ると手が付けられないようになる」では不十分なのです。
この「シーズンを通して、ドライブを繋ぎながら得点することを繰り返す」行為の継続性を維持するためにどんな取り組みが必要でしょうか。
Rams の場合
Rams のオフェンスの組み立ては
- T.Gurley のランを主軸とする
- パスプレイはQB のコード処理の負担の少ない”Fixed なパス”の割合を増やす
- “Optional なパス”もオプションの要素を減らしてコード処理の負担をできるだけ軽くする
- スクリーンパスを効果的にコールして相手ディフェンスのブリッツの有効性を下げる
- プレイアクションを使って相手ディフェンスのカバーを崩す
などパスオフェンスの遂行のボトルネックになりやすいQB のタスク処理の負担を軽くする配慮が随所にみられます。これはQB を助けてやりたいという”wet” な感覚ではなく「何とかこいつを使いこなして勝ち上がらないといけない」という”dry” な感覚に基づく発想だと思います。
QB の負傷リスクに備える
パスプレイの多くをQB 個人の資質に負うGreen Bay Packers やIndianapolis Colts の場合、QB が負傷により欠場することがそのままパスオフェンスの失速、すなわちオフェンス全体の得点力の低下につながります。一方、2017シーズンを制したPhiladelphia Eagles はスタートQB Carson Wentz を怪我で失いながら控えQB Nick Foles の起用でオフェンスの攻撃能力を維持することに成功しました。これはラッシングオフェンスの競争力が高い水準にあったことと、パスオフェンスの多くの部分をQB のフィールドレベルのタスク処理に求めなかったからだ、つまりQB に多くを期待しないオフェンスの設計が功を奏したのだと考えます。Patriots が2016シーズンの開幕から4試合をT.Brady 抜きで戦ったときの状況もこのEagles のケースに似ていると思います。
競争の激しいNFL ではあるチームが成功させたスキームが他チームに取り入れられるのも、対策を取られて優位性を失うスピードも驚くほど高いです。これらのチームの成功に習い次に攻撃力を上げてくるチームはどこなのか、あるいは何かしらの対策によってこれらのチームの優位性も失われてしまうのか、これからのNFL の”(a)の大きさを競う”取り組みに注目です。
Cleveland Browns のパスオフェンスは何故うまくいかないのか?(まとめの代りに)
最後に、これまで展開してきた私なりのパスの捉え方を土台に「何故Browns はこうなのか」を考えてみたいと思います。パスオフェンスが上手くいかない場合、その理由として
- 相手ディフェンスがランを警戒せずパスだけを全力で阻止しに来ている
- パスプロテクションがもたない
- スキルポジションの競争力が不足している(フリーになってボールをキャッチできる人材がいない)
- QB がパスプレイの「コード処理」を上手く遂行できていない(ディフェンスのカバーが読めない)
- QB のパスを投げる機械的技術的能力に問題がある(ボールが届かない/コントロールが悪い)
などの原因が考えられます。
1.は十分にありえます。相手チームのパスオフェンスの競争力が著しく低くディフェンスの介入によってパスオフェンスを壊滅させることができるならば、ディフェンスの側はたとえ相手に180ヤードのラッシングを許したとしても自分たちの目標を達成することが可能です。この場合、Browns はぜい弱なパスオフェンスをもって全力でパス(だけ)を止めにかかってくるディフェンスを相手にすることになり、ますます窮地に立たされるという悪循環に陥ります。Browns が真っ先に解決すべき課題は「パスオフェンスの競争力を増す」ことでしょう。
2.については私はBrowns のパスプロテクションの強さについて語るべき知識がないので態度を保留します。
3.もありえると思います。Browns の選手の評価基準や選手集めの傾向を見ていると、”Body Structure/ Function(身体構造と機能)”や”Athletic Ability(運動能力)”の方を重視して肝心のフットボール選手としての”Skill”を軽視する傾向があります。Patriots のスキルポジション選手とBrowns のスキルポジション選手が「かけっこ」で競えばBrowns が圧勝するでしょう。でも「フットボール」で競ったら…?
4.これが一番問題だと思います。Browns のQB とこの記事で挙げてきた他チームのQB との一番の違いは「QB の球離れの速さ」と「パスを投げ込むテンポの良さ」です。他チームのQB はボールがスナップされた後、早いタイミングで周囲に十分なスペースを獲得しているイニシャルターゲットに向けて、余裕をもってボールを投げ込んでいます。一方Browns のパスプレイではそもそも誰がイニシャルターゲットなのか判別することが困難です。QB は既定のタイミングでパスを投げ込むことが出来ず、ボールを手放せないままおろおろしています。ほとんど全てのパスプレイにおいてスリリングな展開になります。
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5.この部分は良く分かりません。でも、スカウトの厳しい選別を経てプロ入りしてきたQB のうちで、Browns に指名されたQB だけがプロの水準に届かないほど肩が弱かったりコントロールが悪かったりするでしょうか…?私はちょっと疑問です。
私の結論は「Browns のパスオフェンスはパスのコードの設計と、プレイコールの両方に問題がある。QB のコード処理能力にも問題があるが、これは先の二つの件の取り組み方の拙さからコーチのQB への介入の仕方に問題がある可能性がある」というもので、要約すると「コーチが(ほとんど全部)悪い」です。
Browns はこの2017オフにエリートスロットレシーバーJarvis Landry を獲得し、これを受けて「スキルポジションにビッグネームを集めたBrowns オフェンスはいよいよ生まれ変わるに違いない」との声も多く聞かれるようになりました。でも私はその意見に賛成しかねます。Browns のパスオフェンスが上手くいかない原因の多くは適切なターゲットに、適切なタイミングで、適切なリードボールがデリバーされないこと、つまりボールの受け手でなく送り手の側にあると考えるからです。
- スカウティングに基づいて相手ディフェンスのカバーの薄い部分にイニシャルターゲットを送り込むようプレイを設計する
- 1.のタイプのプレイを、試合を通じて起こりうる状況に対処できる十分な数用意する
- 試合の各局面において2.で用意したプレイの中から最適なプレイをコールする
以上の取り組みがしっかりと出来ない限りBrowns のパスオフェンスは目に見える明らかな向上はみられないだろうと予想します。
シリーズ ”アメフット工学”
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勝ち組チームに学ぶパスオフェンスのトレンド
Football Offense Rating(仮)
”フットボールプレイヤーは高度な技術職である” (近日公開予定)
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