2019 Season Winner is …
忙しい人のための要約
今シーズンはNew England Patriots の優勝で幕を閉じる可能性が75%、Kansas City Chiefs, Pittsburgh Steelers, L.A Rams の優勝の可能性が24%、それ以外のチームが優勝する可能性は1%くらいだと思ってます。
近年のNFL には注目すべきトレンドが2つあります。
- デリバティブにも似た、近い将来起こるであろうことを予測しその予測に基づいて「投機的」にプレイ選択を行う傾向
- チーム作りにおいて「タレントを漁って必要を満たす」スタイルから「チームの攻め(守り)の型が先にあって、そのニーズを満たせる選手を登用する」スタイルへの変化
以下では今シーズンの展望と予想についてふれながらNFLとはどういうリーグなのか、何が競われているのかについて私見を述べます。
フットボール工学
これまで何度かこのブログで取り上げていますが、近年のNFLのトレンドとして
- その試合のそのスナップにおいて、相手がどんなプレイ選択をしてくるのかを高精度で予測し、相手の切ってくるであろうそのカードに勝てるカードをピンポイントでぶつける手法が広まった
- 攻撃のスタイル/守備のスタイルを作りそのスタイルに合うプレイヤーをスカウトし、またスタイルに合うようにトレーニングする
上記2点が目立ってきています。近年のNFLはこの2つのトレンドを上手く取り入れたチームにより席巻され、上手く取り入れられていないチームはこれらのチームに競り負けてしまいます。何故でしょう。
カードゲーム
私がNFLに興味を持ちだした80年代後半から90年代後半くらいまでと今現在のNFLゲームで顕著に変わったことに「QBがボールを持つ時間が短くなった」、言い換えるとQBがドロップバックしてからボールを手放すまでの時間が短くなったことが挙げられます(ドロップバックも短くなりました。昔は5~7ステップが多くみられましたが今はどのチームも3ステップが多くなりました)。アメリカンフットボールでは、オフェンスはボールがスナップするその瞬間まで相手ディフェンスがどんなカバーを敷いてくるのか分かりません。以前のNFLではだから、パスプレイにおいてコードを仕込み(相手FSをキーとする。彼がターゲット#1のカバーに動かなければ#1にパスを投げる。#1をカバーしに彼に寄せてくれば#2にパスを投げる)QBはそのコード処理をしながらパスを通す、といったことが行われていました。ところがこの手法は以下の理由から上手くいかなくなってきました。
- ディフェンスのカバースキームの高度化複雑化が、QBがカバーを読みターゲットを適切に選ぶ能力の進化より早く進化した
- 個々のディフェンダーの能力が進化し、QBにとってボールを投げる「窓」が閉じてしまうのが早くなった
- QBにディフェンスを読む十分な時間を与えないことが大きな価値を持つようになったため各チームが優秀なパスラッシャーを求めるようになった
パスラッシャーからのプレッシャーにうち克ちながら辛抱強くディフェンスを読み、適切なターゲットに適切なリードボールを、適切なタイミングで投げられるQBは限られます。そういったQBに恵まれないチームはどうやってパスを通すのか。
”Fixd”なパス
予め決められたターゲットに、決められたタイミングで、決められたリードボールを投げ込む。こういった、パスを通すためにQBが処理すべきタスクを最小化したパスプレイを多数試合に持ち込む、というのはこの困難への一つの対処法のように思えます。この種類のパスの利点として
- QBが複雑化する一方のディフェンスのカバーを読む必要がない。QBに要求されるのは極論すれば予め決められたスポットに決められたタイミングでボールを届けることだけである。
- QBがボールを手放すのが早くなる。それによりパスラッシャーから受ける脅威を減じることができる。
- 2次的な利点としてQBを市場から求めやすくなる。QBに要求される資質として「プレッシャーに耐えつつディフェンスを読む」というレアな能力の価値が低下して「ちゃんとボールを投げられる」ことさえできれば良いことになる
ことなどが挙げられます。一方で絶対的なデメリットもあります。先述したようにオフェンスはボールが動き出すまでディフェンスがどんなカバーを敷いてくるのかが分かりません。これからボールを投げ込もうとする先にディフェンダーが待ち構えていたらこの種のパスプレイは成立しなくなります。このため各チームはその環境でどのプレイ(この場合決め打ちのタイミングパス)を選択すればボールを前に進めるための期待値が最も高くなるのかの研究に注力してきました(と、妄想します)。私たちが今目の当たりにしてるのは「その研究において最先端にいるチームが、スナップ毎に最適解を選びボールを継続して進め続ける営みにおいて、その競争についていけないチームを圧倒している」ところなのだと理解しています。
このオフェンスのトレンドをディフェンスにも取り入れようと考え、実践で先行しているのがPatriots であることも、このスタイルでオフェンスを大成功させたのが同チームであることを思い出せば当たり前なのかもしれません。アメフットではディフェンスもオフェンスと同じように、オフェンスがボールをスナップさせるまで彼らがボールをフィールド上のどの位置に、どのように持ち込もうとしてるのか分かりません。だからディフェンスは守るべきフィールドを広く浅く守る、というのが常識でした。しかしPatriots のディフェンスを観察していると彼らがかなり具体的なところまでオフェンスのプレイコールを予測して、そのボールが行くであろう先に先回りしている様子がうかがえます。これは例えば2016シーズンまでのRaiders ディフェンスのような「各プレイヤーが自分の責任ゾーンにただ下がるだけ」のディフェンスと見比べると明らかです。以下は想像ですがPatriotsは
- スカウティングにより相手オフェンスがどんなシチュエーションのときどんなプレイ選択をするのかを絞り込む
- ディフェンスの各プレイにはプレイヤーにアサイメントを指示するだけでなくかなり具体的に止めるべき相手のプレイ(右へのジェットスイープとか5ステップドロップバックのパス、といった具合に)を指示している。
のではないかと思われます。
パズルを完成させる
現在のNFLで成功を収めているオフェンス/ディフェンスには「自分たちはこういうボールの進め方で得点を積み上げる/失点を阻止する」という明確な「完成させるべきパズルの絵柄」がまずあって、選手の登用もそのパズルの絵柄を完成させるべく「求める隙間に合うピース」としての選手を選抜し、トレーニングしています。例えばPatriots オフェンスのJulian Edelman やディフェンスのPatrick Chung などは同チームのスキームの「キーストーン」のような役割を果たしています。Steelers だとディフェンスのT.J. Watt は彼の選手としての特性とSteelers のディフェンスのニーズとが上手くマッチングした理想的な起用法の典型例だと思います。こういったチームの選手たちはチームにおいて自分の特性をよく引き出してくれるチームの中で良いパフォーマンスを発揮しているわけで、PFFグレードが高いとか派手にスタッツを稼ぐ選手を漁るスタイルのチーム運営とは似て異なるものです。
強引かつ雑なまとめ
現在ポストシーズンを勝ち抜いてスーパーボウル王者を目指せるのは以下のようなチーム作り/チーム運営ができるチームです。
- 攻守に明確なビジョン(デザイン?)があり、そのビジョンを具体化できる人材を登用、訓練できる
- 試合前の段階で相手チームの特性を理解し、その良さを潰すプレイをプレイブックから抽出してゲームプランを作成する。
- 試合当日はそのスナップにおいて、相手がコールしてくるであろうプレイを予測し、そのプレイに「コール勝ち」できるプレイをコールする。
ポストシーズンはこういうプロセスをどれだけ徹底できるかの勝負になります。
Team by Team Summary
New England Patriots
ここまで述べてきた高度にシステム化されたチーム作りを、攻守両面で徹底することで他チームを圧倒しています。先年のスーパーボウルはぼーっと観てるとRams がなすすべなく敗れた凡戦ように見えますが、よく観察するとPatriots のディフェンスが昨季リーグを席巻したRams のオフェンスのやろうとすることにことごとく先回りしてボールの行き先を潰してしまうという、革命的(と言っていいと思います)なゲームでした。このディフェンスが普遍化すると大げさでなくアメフットというゲームの在り方そのものを変えてしまうんじゃないかとさえ思えます。
オフェンスも相変わらず驚異的です。パワーIフォーメーションとスプレッドフォーメーションを併用するハイパワーオフェンスに加えTom Brady の2ミニッツオフェンスの上手さときたら、、このチームに勝つには現状試合終了まで1分30秒前の時点で9点差以上の点差をつけるしかありません。どのチームが土をつけるんでしょうか。
Kansas City Chiefs
Patriots に試合終了まで1分30秒前の時点で9点差以上の点差をつけられるとしたらこのチームしかないんじゃないかと思います。オフェンスはスキルポジションにおいて貴重な控えメンバーを失いましたが、このチームにとってはディフェンスチームの補強に成功したことのプラス面の方がより強く影響するんじゃないかと思います。
不安な面があるとすればチームとHCにつきまとう「インケツ」のイメージでしょうか。私にとってはライバルチームにあたるとこなんですが彼らが和了るところも見てみたい気がします。
Pittsburgh Steelers
スキルポジションの看板だったRB Le’Veon Bell とAntonio Brown は失いましたが、チーム内での扱いに不平を漏らしていた両者がいなくなったことで逆にチームが一つに纏まりやすくなるのではないかと思います。彼らが抜けた穴もJames Conner , JuJu Smith-Schuster が早くも埋めるなどつくづく選手の登用の上手いチームだなと思います。
このチームの見逃せない特性として過去の対戦歴においてChiefs にめちゃくちゃ分がいい、ことが挙げられます。先にも書きましたがポストシーズンのPatriots に一番勝てそうなのはChiefs なんですが、プレイオフでChiefs がPatriots に勝ってその後AFCチャンピオンシップをChiefs とSteelers で争うことになった場合Steelers がチャンピオンを攫う展開もあり得ると思います。
Los Angeles Rams
スーパーボウルでの残念なパフォーマンスの印象が残りますが、HC Sean McVay の就任一年目のシーズンもプレイオフ一戦目でほんとにつまらない負け方をしておきながら次シーズンでスーパーボウル制覇、とまったく順調すぎるステップアップを果たしています。先スーパーボウルの敗戦の主たる原因はオフェンスの攻撃の起点をRB Todd Gurley II 一人に負っているところで、今季ステップアップを果たすためには攻撃のよりどころを増やす必要があります。それは、私の想像では5人のレシーバーへの速いタイミングのパスの割合を増やすことじゃないかと思います。
Other notable Teams
New Orleans Saints
Drew Brees のパスにAlvin Kamara のランが加わり得点力はあるものの安定感を欠いていたオフェンスがより底上げされました。いつでも、どんな相手でも高得点を挙げる体制が整い何年かぶりのスーパーボウル制覇も視界に入ってきたように見えます。でも私の眼にはまだタレント頼みというか、、フロント/コーチ/プレイヤーが一体になって勝負する形にはなっていないように映ります。このチームは上記コンテンダーとの争いのなかで、最適解を選ぶ勝負に、結局のところ敗れるんじゃないかと思います。
Indianapolis Colts
長年チームをけん引してきたQB A.Luck が引退し何年かぶりに(!)フランチャイズQBを下がるフェーズに入ります。しかしEagles でスーパーボウルを制したHC Frank Reich のオフェンス構築/運営術のキモは「ボールを進める営みにおいてQB個人の資質に依存する部分を最小化する」ところにあるので、本来本命でなかったQBに頼ってのオフェンスにおいてもそれほど影響は出ないんじゃないかと思います。QB以外のメンツは整ってきている(しかも入団年度が若く彼らがサラリーキャップを圧迫するようになるまでまだ間がある)のでここ数年はリーグの波乱要素になりそうです。
Cleveland Browns
今年は私も、おそらく他の人とは違った切り口でこのチームに注目しています。リーグで注目されるビッグネームを多く集めたこのチームですが、私がここまで述べてきたリーグのトレンドとは明らかに逆行しているように思います。アベレージクラスとの対戦ではそれこそ「タレントで圧倒する」戦い方が可能でしょうが、プレイオフを争うレベルの試合においては「最適解を選びぬく」争いに敗れるだろうと予想します。
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